産後は身体のバランスが大きく変わり、不調をきたす事があります。
たとえば子宮の戻りが遅れたり、悪露がいつまでも続いたり、産褥熱が出たり、または乳腺炎や膀胱炎、マタニティーブルーや産後うつなど、産褥期の経過は人によってさまざまです。
なぜ、産後の肥立ちが良い人もいれば、悪い人もいるのでしょうか?
その違いは、その人の回復しようとする力、すなわち自己治癒力の強さによるのです。
自己治癒力とは、病から身体を守る免疫力や傷の修復能力、細胞が生まれ変わる再生能力や憂うつや落ち込んだ気持ちから立ち直る力などを言います。
生命を維持して健康に生きていくために必要な力を総称して、自己治癒力と言います。
病院も薬もない時代から人々が生き延びてこられたのは、ひとえにこの自己治癒力があったからです。
出産後、元の身体に戻ろうとする回復力もこの自己治癒力の1つです。
回復力(自己治癒力)がしっかり働いているヒトは、産後、順調に回復していきます。
しかし、回復力が低下してしまっているヒトは、なかなか元のからだに戻ることはできません。
では、なぜ回復力(自己治癒力)は低下してしまうのでしょうか?
東洋医学では昔から「冷えは万病の元」と言われてきました。
冷えは、人に本来備わっている自己治癒力(回復力)を低下させてしまいます。
みなさんの身体には、生まれてから今までの疲れが必ずたまっています。
今までの疲れとは、仕事の内容、人間関係、食生活、生活習慣、これまでにかかった病気やけが、交通事故などが元になるものです。
そして、これらの要因が重なり合いながら、気血の流れ(血流)にかたよりやとどこおりが起こり、だんだんと身体の芯が「冷え」、自己治癒力が低下していきます。
この冷えを「根元的な冷え」といい、様々な病の根本原因と考えています。
近年、現代医学においても、免疫力の低下や自律神経の乱れが、冷えと関係していると言われるようになってきました。
妊娠・出産は女性にとって、とても大きな負担となります。
特に出産にともなう出血や体力の低下は、気血の流れ(血流)に乱れを起こし、一時的に大きな「冷え」を生じます。
そして、自己治癒力(回復力)が低下し、子宮復古不全を招いたり、悪露がいつまでも続いたり、菌への抵抗力が落ち膀胱炎や乳腺炎、産褥熱が出たりするのです。
また、「冷え」は精神面にも影響が及び、産後うつを招くこともあります。
鍼灸治療は、長い歴史の中で病気の成り立ちを東洋医学的に解明し、自己治癒力によって病から回復できることを明らかにしてきました。
そして、その考え方と治療法は脈々と現代にまで受け継がれてきています。
鍼灸治療とは、「人が本来持っている自己治癒力がきちんと働くように導くこと」です。
産後、辛い症状が起きるほど低下してしまった治癒力は、自分の力だけでは回復が難しい場合があります。
鍼灸治療はこの治癒力がきちんと働くように手助けをします。
はりとお灸で「冷え」をとり、気血のめぐりを整え、自己治癒力がきちんと働くように促します。
そして、「妊娠前の元のからだに戻る」という回復力(自己治癒力)を高めます。
また、鍼灸治療は精神安定作用もあると言われ、マタニティーブルーや産後うつにとても効果的です。
近年の研究では、鍼灸治療によりリラックス作用のある、エンドルフィンやエンケファリンなどのホルモンが分泌されることが明らかになり、注目されています。
さらに、抗ストレスホルモンであるオキシトシンを放出させることも最近わかってきました。
これらの働きにより、爽快感が感じられ、気持ちが前向きになり、うつや不安の解消に繋がると言われています。
こころとからだが元気になる鍼灸治療は、産後ケアにとても適した治療法です。
また、良い産後の肥立ちを迎えるためには、出産前にこれまでにたまった「冷え」を解消しておくととても効果的です。